刻の間展
後期:2021年1月25日[月]-2月6日[土]
前期 1月12日[火]-1月23日[土]
後期 1月25日[月]-2月6日[土]
(二期に分けて展示致します)
開廊時間 11:00-18:30 日曜休廊
《出品作家》
相笠昌義
有元利夫
奥山民枝
落田洋子
加藤清美
加納光於
柄澤齊
谷川晃一
中林忠良
野田哲也
野田裕示
櫃田伸也
作品とその作り手、そして作品と「私」との間に生まれる対話は、さまざまな視点で顧みるきっかけを作ってくれます。
時に作品と私たちの関係が変化し、それらが持つ意味も少しずつ変化していくのかもしれません。
今、変化のとば口に立って、私たちからのまなざしを待っています。作品にうつし出された時に思いを巡らせ、それぞれの「あわい」を感じて頂ければ幸いです。
相笠昌義 AIGASA Masayoshi
相笠昌義(1939年− )
東京都生まれ。1962年東京芸術大学卒業。1979年、文化庁派遣芸術家在外研修員としてスペインに滞在、芸術選奨文部大臣新人賞受賞、1982年第25回安井賞受賞。
1968年《文明嫌悪症連作》は、カメラ雑誌から切り取った形体によるコラージュと、そこから展開する版画のシリーズで、人間が生み出す文明や人間の存在そのものへの嫌悪を諷刺的に表現したものでした。1970年代に入ると、作風は一転して具象となり、個々の人間が時間に翻弄されながら存在するさまを描いた《時間差計画》のシリーズは、70年代中頃から、駅や公園、動物園など、都会の中の群衆をテーマにした《日常生活》 へと移行します。「日常のごく当たり前の生活」を描くことが、自らができる「現代を見つめる唯一の方法」とも語っています。
有元利夫 ARIMOTO Toshio
岡山県生まれ。1969年東京藝術大学美術学部デザイン科に入学。在学中に渡欧した際、イタリアのフレスコ画に強く感銘を受けフレスコ画と日本の仏画に共通点を見出し、岩絵具を用いることを決心します。1978年「花降る日」で安井賞特別賞を受賞。1981年には「室内楽」にて第24回安井賞を受賞。バロック音楽が聞こえてくるような作品群は、古典絵画のような風合いと静謐な時間に満ちています。
奥山民枝 OKUYAMA Tamie
奥山民枝(1946年-)
1969年に東京藝術大学美術学部を卒業後、スペイン王立サン・フェルナンド美術大学名誉留学生として渡西。ヨーロッパ各国の美術館・美術大学・寺院などを訪ねた後、ユーラシア大陸横断旅行を経て帰国。その後も北米横断、インドネシア諸島、南米大陸一周など世界各国を旅してきました。「自分の中で発酵した旅の記憶が表現の元となっている部分もある」と振り返っています。
初期作品から一貫して自然のなかに潜む生命力やエロティシズムに着目し、山、雲、太陽などのモティーフを描き続け自然の存在の神秘や宇宙の根源の真理に迫る特異なヴィジョンを深化させていきました。
落田洋子 OCHIDA Yoko
SM 1993年 油彩画
SM 1993年 油彩画
SM 1993年 油彩画
落田洋子(1947年-)
埼玉県生。1968年、武蔵野美術短期大学商業デザイン科卒業。広告企画の仕事を経て、1976年から油彩画を描き始め、1979年、銅版画を開始します。
作品は単行本や文庫本など多く使われています。
1982年、『紅茶と海』でライプツィヒ国際図書デザイン展銅賞を受賞。
加藤清美 KATO Kiyomi
1985年 銅版画 430×358mm
1981年 銅版画 358×294mm
1961年 銅版画 357×248mm
1985年 銅版画 430×358mm
東京都に生れる。1958年日本大学演劇科中退。駒井哲郎に師事。1959年から春陽展に出品し翌年春陽会賞を受賞。80年代からは油彩画も制作。
作品は一種の舞台装置のような虚構の場面から始まります。舞台にいる向こう側の世界と、それを眺めるこちら側の世界。唐突に差し出された手や、伏目がちな女性の優しい表情、何も映し出されることのない鏡。それらは、私たちの日常からは遠くかけ離れたものではなく、ふと振り返った時に見えてしまう幻覚のような世界なのかもしれません。
加納光於 KANO Mitsuo
加納 光於(1933年 - )
10代後半から植物や微生物の形態に深く関心を寄せ、さらにフランス近代詩を耽読します。19歳の時には、古書店で偶然版画の技法書を手にしたことをきっかけに独学で銅版画の制作をはじめ、1955年で初の銅版画集『植物』(私家版・限定8部)を刊行、翌年には詩人で美術評論家の滝口修造の推薦により初の個展を開催、以降次々と版画による実験的、独創的表現を展開していきました。1959年にはリュブリアナ国際版画ビエンナーレでリュブリアナ近代美術館賞を受賞、以後内外の国際展で受賞を重ねています。
1969年ころから函形立体のオブジェ作品を制作。1976年よりデカルコマニーを利用したリトグラフ連作『稲妻捕り』に没頭、1980年油彩画のはじめての作品群を個展『胸壁にて』として発表しました。
柄澤齊 KARASAWA Hitoshi
2012年 ドライポイント 90×118mm
1990年 木口木版
2012年 ドライポイント 90×118mm
柄澤齊(1950年 - )
栃木県生まれ。1971年創形美術学校版画科に入学し日和崎尊夫氏に木口を学ぶ。1986年より《死と変容》シリーズの制作を始め、翌年頃から書物や標本を主題にした リーヴル・コラージュやボックス・オブジェを制作。
1993年に19世紀の平圧式印刷機 アルビオン・プレスを用いて、工房「梓丁室」を開設。1997年から墨と和紙を使った平面作品を制作し、1999年《作庭記》の連作を発表。
その一方でエッセー『銀河の棺』を執筆。2002年ミステリー小説『ロンド』は下野文学大賞を受賞。2006年には栃木県立美術館と神奈川県立近代美術館鎌倉で回顧展を開催。様々なイメージを醗酵させ創りあげられた作品は、文学に対する深い愛情を感じ、書物が開かれた時のような想像の世界に魅了されます。微細な空間には宇宙が広がり、夢、死、太古など万物が紡ぎ出した様々な記憶の世界を駆け巡ります。
谷川晃一 TANIGAWA Koichi
谷川 晃一(1938年 - )
東京都生まれ。画家、エッセイスト、美術評論家、絵本作家。
60年代から「読売アンデパンダン展」などに出品し、ハイレッドセンターやネオダダのメンバーと一時活動をともにするなど当時の前衛美術の流れの中、国内外の画廊、美術館で発表。初期の文明批評的視点を含んだシャープでミステリアスな作風から、伊豆高原への移住などを経てプリミティブなものに作風が変化。「伊豆高原アートフェスティバル」を立ち上げイベントを成功させました。
近年の「雑木林シリーズ」では、海外を旅して影響を受けたプリミティブな要素も含み、人と自然が同化する不思議な心地よさを感じさせます。
中林忠良 NAKABAYASHI Tadayoshi
中林忠良(1937年- )
70年代半ばには渡欧経験などを通じて転機を迎え「すべてくちないものはない」という観念から生まれた、大地や草がモチーフの「Position」「転位」シリーズに着手。86年より「山のアトリエ」を構え、移ろいゆく自然の姿に心を動かされながら、近年の作品では混沌とした社会へ柔らかな光が差しこむかのような光条を作品に描き込んでいます。
野田哲也 NODA Tetsuya
野田 哲也(1940年 - )
熊本県出身。1968年以降写真を使ったシルクスクリーンと木版を組み合わせて自身の日常の断片を描いた「日記シリーズ」で独自の作品世界を作り上げ国際的な評価を受けてきました。多色刷り木版と、写真をベースにシルクスクリーンというユニークな組み合わせを手漉き和紙の上に表現した「日記シリーズ」はドリット夫人との出会いから今日まで創作しつづけています。
日記をテーマにしている為、全ての版画のタイトルは、「日付」となっており、自らの作品については、「見る人の想像力をくすぐるような、抽象的なもの、ミステリアスなもの、ユーモラスな要素が好き。同時に現実的な配置のなかにどれだけ抽象的な要素を盛り込めるかということを見せたい」と2014大英博物館での野田哲也展にて語っています。
野田裕示 NODA Hiroji
野田裕示(1952年-)
和歌山県生まれ。1976年多摩美術大学絵画科油画専攻卒業。国内外の美術館、画廊で発表を続け、2001年には芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。また石彫の岡本敦生氏とのコラボレーション作品が現代日本彫刻展(2005年)で毎日新聞社賞を受賞するなど、立体と平面による新しい展開も見せています。2012年には国立新美術館(東京)で大規模な回顧展が開催され、以降も精力的に発表を続けています。
80年代初めの箱に入ったレリーフ状の支持体は、徐々に全体を麻の袋で覆ったものに変化し、さらにカンヴァスを幾重にも重ね、人体のようなフォルムが現れたり、一転して白のフラットな画面に自由な形を描いたりと様々な変容を見せています。
櫃田伸也 HITSUDA Shinya(1941年−)
東京生まれ。東京藝術大学大学院修了後、愛知県立芸術大学や東京藝術大学で後進の指導にあたるかたわら、主に油彩画の制作に取り組んできました。 1985年、安井賞受賞。その前後にはニューヨーク、パリに研修員として滞在し、活動の幅を広げました。
作品は空き地、水路、コンクリートの壁、植物など身の周りの風景です。それは現実の写しではなく、幾重にも断片化され、造形的秩序のなかで再接合されたイメージの織物です。まだ東京に地面の土が露出していた時期から、道がコンクリートで覆われその上にビルが建ち並ぶまで街を歩き回って「見ること」を積み重ねた経験は、櫃田の絵画の原点と言えるでしょう。