柄澤齊展
版画集『方丈記』(1993-1994)
詩画集『植物の睡眠(1995-1996)
会期:2017年2月4日(月)ー12月16日(土)
開廊時間:11:00ー18:30 日祝休廊
1993年から1996年にかけて制作した二つの版画集を展示します。
版画集『方丈記』(1993-1994)は鴨長明のテキストによる16点の版画からなる連作です。
「行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」で始まる『方丈記』からことばを選び、その視覚化を試みています。
『方丈記』の前段はさまざまな災厄を記します。時代を越えて繰り返される災厄は、後段における長明の、遁世者としての生のありかたへ読者を導きます。「世にしたがへば、身苦し。したがはねば、狂せるに似たり」と書く長明が身のよりどころとした小さな方丈は、版を生のよりどころとする版画家の「方丈」に時空を超えてつながります。
詩画集『植物の睡眠』(1995-1996)は本作完成後に急逝した詩人、岡田隆彦の19行詩19篇をテキストとし、その14篇の詩と扉に付された15点の版画、および詩から独立した10点の版画で構成されています。版画による植物のさまざまな形象へのアプローチと、植物の息遣いにもなぞらえられる詩人の「生」との掛け合いからこの詩画集は生まれました。 今回は詩から独立した10点の版画と、用紙を変えて刷られたそのヴァリアント(異刷り)、および詩と版画からなるページの一部を展示します。
『方丈記』『植物の睡眠』、どちらもほかに手掛ける者のない木口凹版の技法を用い、作者自身の出版工房である梓丁室(していしつ)が制作発行したものです。 版画は出版物であり、読む絵でもあることを意図した『方丈記』と『植物の睡眠』は、版画以外の方法では不可能という意味からも、作者が代表作に掲げる版画集と詩画集です。
柄澤齊
版画集『方丈記』
1993-1994
方丈記 1
行く河の流れは絶えずして
方丈記 2
無常を争ふさま いはば朝顔の露に異ならず
方丈記 3
風に堪へず吹き切られたる焔 飛ぶが如くして
方丈記 4
家のうちの家財 数を尽くして空にあり
方丈記 5
古京はすでに荒て 新都はいまだならず
方丈記 6
道のほとりに餓ゑ死ぬるもののたぐひ 数も不知
方丈記 7
山は崩れて河を埋み 海は傾きて陸地をひたせり
方丈記 8
世にしたがへば身苦し したがはねば狂せるに似たり
方丈記 9
広さはわづかに方丈 高さは七尺がうちなり
方丈記 10
西南に竹のつり棚を構へて 黒き皮籠三合を置けり
方丈記 11
冬は雪をあはれぶ 積り消ゆるさま罪障にたとへつべし
方丈記 12
かしこに小童あり 時々来りてあひとぶらふ
方丈記 13
われ今 身の為にむすべり 人の為に作らず
方丈記 14
魚は水にあかず 魚にあらざればその心を知らず
方丈記 15
一期の月かげ傾きて 余算の山の端に近し
方丈記 16
汝姿は聖人にて 心は濁りに染めり
詩画集『植物の睡眠』
版画 柄澤齊 詩 岡田隆彦
木口凹版 430×390mm 1995-1996年
木口凹版 430×390mm 1995-1996年
木口凹版 430×390mm 1995-1996年
木口凹版 430×390mm 1995-1996年
木口凹版 430×390mm 1995-1996年
木口凹版 430×390mm 1995-1996年
木口凹版 430×390mm 1995-1996年
木口凹版 430×390mm 1995-1996年
木口凹版 430×390mm 1995-1996年